溺愛パンデミック

奇跡が消えないように 僕等が生きた証を ここに記そう

ビューティフル・サンデイ

男は怒り、女はとぼけ、ゲイは笑う。素晴らしき日曜日。

何となく、以前からこの舞台の存在は知っていました。関西ジュニア時代に照史くんが出た舞台だという事、まだDVDは通販で入手が出来る事、何度もリメイクされているもので、元からとても評判の良い物語である事。知っていながらも今日この日まで手を出さなかったのは、特にジャニーズWESTが不足していなかったからで、逆に言えば買うまで至ったのはジャニーズWESTが不足しているからです。音源かDVDを出してくれ。

そんな気持ちで買ったものだから、照史くんが見れればそれで良かった。同じタイミングでジュニア時代のDVDを幾つか注文していたのでとにかく彼らが見れればそれでいいというとても安易な気持ちで購入したはずだったのに、こうして感想を書き留めておきたいと思わずにはいられない。それほど複雑で人間味が溢れていて切なくて面白くて温かい素敵な舞台で、ああなんで早く買っておかなかったのかとすら思います。

照史くん目的で買ったのもありますが、ちょっとだけ他人事でもないのでヒロの事に関しての感想が多めですが、悪しからず。
(※ネタバレもあります。今後DVD等観る予定がある方はこれ以降お気をつけて。)




たった1日、ある日曜日の出来事。秋彦が朝起きたシーンから始まる1日。何の変哲もない筈だった1日。驚くほどリアルなんです、情景が。秋彦が「寒っ…」とベッドから起き上がり暖房をつける。眼鏡をかけて上着を羽織り、顔を洗ってタオルで拭いて洗濯機を回す為に冬の寒い朝のベランダで肩をすくめる。ただの日常、どこにでもある日常。

そこから、ちひろが現れ言い合いになりヒロが加わり意気投合して物語が進んでいく。喋りっぱなしの2時間。舞台上で台詞が飛び交い、秋彦はよく動くし怒るし、ちひろは空気を読まない奔放さ、ヒロは常に笑っていて、まさに最初の文言にある通りなのですが、少しずつ伏線と言いう名の闇が顔を出す。相手を想うあまりの優しい嘘で包まれていたその闇が第3幕でドン、と重く3人を包むのです。

第3幕の冒頭、ヒロと秋彦の掛け合いシーン。「髪、切ってよ」とおねだりするヒロはもう覚悟を決めていて、秋彦が見えない所では笑いません。

HIV検査でさ、陽性だってわかって、それまで一緒に住んでた男にも出てけって言われてさ!はっきし言って俺死にたかったもんね!」

声色は明るいけれど、誰が見ても痛々しい笑顔と思い出。それまでヒロの事を必要としてくれていた人の最大の裏切りをヒロは、相手を責めずに自分を責めた。秋彦が肩を抱いた手に重なるヒロの手がどうにも切なくて。「しょうもないこと覚えてんなあ」といった秋彦に「俺は絶対忘れないよ」と返すヒロ。少しずつ、さよならの準備が整っていきます。

それから、物語上で恐らく1番重たくシリアスな秋彦とヒロのシーン。大分に連れて行きたい秋彦とそれを拒むヒロ。無理矢理に笑いながら紡ぐ言葉がもう相当重い。

「拾ったネコをまた捨てるのって良心が痛むよね。そのネコが病気なら尚更。ネコが自分から出ていくのを待つしかない。だから俺は出ていくよ!」

「俺たち男女の関係で言うとヒモだよ!しかもホモのヒモ!最低だよね!」

上記以外でも口にするのも躊躇われるような、ストレートな台詞が何度も飛び交うこのシーン。照史くんと秋彦役の葛山さんの気迫と会場の張りつめた空気が画面越しでも痛いほど届く。

オー ディオコメンタリーでキャストのお三方が「ヒロはいつ秋彦がゲイじゃないって気づいたんだろう?」と話していましたが、きっと最初から気づいていたんだと思います。お仲間ってさ、分かるものじゃないですか。表参道で出会った時から、この人はきっとノンケなのにどうして優しくしてくれるんだろうって疑問を持っていて、(もしかしたら一緒に布団に入った時点で少しの期待を持ったのかもしれないけど、)時系列で言うと会った日なのか後日なのか、表参道でなのか布団に入ってからなのかは分からないけれど秋彦がお父さんの話をしたときに、この人はゲイに対して否定的なんだと思ってしまったんじゃなかろうか。

そこから最初のセリフに戻って考えると、きっとヒロは後ろめたさしか持ってなかった。そうやって弱い自分を見せて、秋彦に甘えてる自分も嫌いだったのかもしれない。

「意味もなくハッテン場とか行ってさ、暗くてじめじめした布団の中で抱き合ってる男たち見て、最低な場所にいる、俺もこいつらと同じなんだって」

恐らく物語の一番初めの秋彦の「昨日はどこに行ってたんだ?」の問いの答えがこれで、まあそれが最低かどうかはさておき、ヒロなりにたくさん考えていたんだと思います。秋彦が記念日を忘れていたことも、多分ひとつの不安要素。

一度裏切られた思い出って消えないんですよ。そんな深刻な事じゃないんですけど、人間は忘れる生き物だってって言っても思い出すことは出来るんですよ、幾らでも。そこにはここでは書ききれないヒロの心情があったと思うんですけれど、やっぱり私ってこういう運命なんだよなって思う事、誰しもあって。きっとあの時のヒロはまさにそんな感じだったはず。ちょっと自暴自棄な所も含めて、結果的には秋彦の事が好きで、大切で、自分のそんな運命の道連れにしたくないと思ったから。

ヒロがちひろに言った「男はいつまでも自信が無い生き物なんだから、」ってもしかしたら自分自身に言い聞かせてきた事だったのかもしれない。いつまでも自信がないから、自信を持たなくちゃ。って。そんな簡単に出来る事でもないんですけどね、特に謙虚が美徳とされている日本人は。

それから紆余曲折あって、ちひろが泣きながら秋彦に言うんです。

「私、貴方たちに嫉妬してた。どんなに不幸でも他人の幸せを妬んだりしない人間でありたかったのに、どうして私こんなに嫌な奴になっちゃったんだろう。」

けれど秋彦は

「幸せになりたいと願うやつが、他人の幸せを羨むことは、決しておかしい事じゃない」

そう言って慰めます。
まさにこれ、この間友人と話していたことと合致していて、人間は必ず嫉妬っていう感情を持つけれどこれの根源って羨ましいって気持ちだと思うんですよ ね。でもそれって仕方のない事じゃないですか。要はその感情をどうするかが個人の理性の問題であり、ヒロの病気を聞いて泣いちゃったり大好きだった彼の奥さんの事で泣いちゃったりしたちひろは決して悪い訳じゃない。人間らしく、羨んだだけなんです。

「星でも降らない限り別れない」という言葉を信じていたちひろ。結局のところ奥さんの病気という名の星が降って彼と別れてしまったわけですが、彼女のような素敵な女性ならきっともっと素敵な恋が出来るんじゃないかなあと思いました。
秋彦とヒロの大分の事も含め、3人はあの後も幸せに前向きに暮らしていてほしいな。


男は怒り、女はとぼけ、ゲイは笑う。素晴らしき日曜日。
こ のキャッチコピーだけ見ると、ほのぼのとした日常の中のコメディぐらいだと思っていたのに。男が怒る理由は不法侵入の女に対しても、自分の恋人に対しても、自分自身のふがいなさに対してもだし、女がとぼける理由は、不法侵入に対しても、自分の苦しい過去に対しても、自分の本当の気持ちに対しても。そしてゲイが笑う理由は、楽しくてだし、切なくて辛い気持ちを隠すためだし、自信が持ちたかったから。けれど3人が集まったことによっていろんな出来事が起きてそれが明るみになって、全部なくなって真っ新な気持ちで向き合えることが出来た、素晴らしき日曜日だったんだなと。

届いて2日で5回も見ただけはありますか?(内1回はオーディオコメンタリー)
あとは生演奏なのもすごかった。ピアノだけじゃなくてパーカッションも同時に演奏するし果ては後ろ向いて大きく手を振ってるし、とても素敵でした。
照史くん、こんな素敵な舞台に出逢せてくれてありがとう。

さて、帰宅したらもう1回、いや飽きるまで見たいと思います。

 

It's beautiful Sunday!